「馬の獣医になりたいけど、実際どんな働き方があるの?」「実習先ってどう選べばいいの?」
そんな疑問を抱いている獣医学生も多いのではないでしょうか。
犬猫と比べて情報の少ない馬業界。進路に悩むのは当然のことです。
でも、だからこそ実習・インターンを活用した“リアルな体験”が武器になるんです。
この記事では、中央・地方競馬、乗馬、牧場…さまざまな馬の獣医師の働き方を紹介しながら、
就活に活きる実習の選び方や動き方、経験者のリアルな声までを網羅的に解説します。ぜひ役立ててくださいね。
馬の獣医師にはどんな働き方があるの?

ひとくちに「馬の獣医」と言っても、その働き方はさまざま。
競馬や生産、乗馬など、馬業界には複数のフィールドがあり、それぞれで求められる役割や働き方も異なります。
ここでは、競走馬を支える獣医師と、乗馬業界で活躍する獣医師の2つに分けて、その実態をご紹介します。
競走馬を支える獣医師たち(JRA/NAR/生産牧場)
中央競馬(JRA)で働く獣医師
JRAで働く獣医師には大きく2パターンあります。
ひとつはJRAに直接雇用される所属獣医師で、トレセンや競馬場での疾病予防や診療、薬品管理や大会運営など多岐にわたる業務を担当します。
もうひとつは、トレーニングセンターなどで診療を行う開業獣医師。JRAから診療枠が割り当てられ、個人またはグループで診療を請け負っています。臨床中心の働き方ですが、枠の確保には信頼や実績が必要です。
地方競馬全国協会(NAR)で働く獣医師
NAR(地方競馬全国協会)の獣医師は、各自治体や団体が運営する地方競馬場で働いており、公正な競馬運営を支えるのが主な役割です。レース前後の馬体チェックや薬物検査、出走可否の判断など、主催者側の立場から競馬を支えています。
また、地方競馬場の中には、JRAと同様に開業獣医師が診療を担当しているケースもあります。こうした獣医師は、競馬場内の臨床業務だけでなく、周辺地域の馬診療も担っていることがあります。
競走馬の生産に携わる獣医師
競走馬の生産を担う牧場でも獣医師が活躍しています。
社台グループ(競走馬生産牧場集団)や軽種馬農協などに所属し、繁殖・出産の管理、子馬の健康管理、種牡馬のケアなど、まさに“馬の一生”に関わる仕事です。レースを終えて帰ってくる馬のメンテナンスや、次のレースへの準備にも携わることができます。
特に繁殖シーズン(春〜初夏)には業務が集中し、夜間の対応や早朝出勤も珍しくありません。
乗馬業界で働く獣医師
乗馬クラブの常駐獣医師
全国各地にある乗馬クラブの中には、自クラブ所属の獣医師が常駐しているケースもあります。
日々の健康管理や軽い外傷の処置を中心に、馬主とのコミュニケーションや初心者への安全配慮など、馬との関係性が深い仕事です。
馬の開業獣医師(往診中心)
乗馬クラブや牧場を回るフリーランス型の獣医師も一定数存在します。
自ら開業しており、往診車でさまざまな施設に出向いて診療を行います。
特定の拠点を持たず、時間的自由はある反面、営業や移動の負担も大きいのが特徴です。
馬業界の就活・インターン情報はどう集める?

馬業界でのキャリアを考えるうえで、実習やインターンでの現場経験は欠かせません。しかし、小動物と比べて情報が少ないと感じる人も多いはず。
そこでこのパートでは、馬の獣医を目指す学生が、効率的に実習・インターンの情報を集める方法を紹介します。
大学のネットワークを活用しよう
大学の先生や大学での活動中に関わる方々からの情報提供により、馬業界の就活情報を効率よく入手できる可能性があります。
特に馬についての研究室がある帯広畜産大学、東京農工大学、山口大学、鹿児島大学などでは、研究室での活動を通じて紹介が得られる可能性が高いです。
一方、自大学に馬の研究室がない場合は、他大学主催のイベントや学会に参加して、コネクションを広げておくのがおすすめです。
JRA・中央畜産会・開業病院の公募をチェック
実習先は紹介だけでなく、以下のように公募されている場合もあります。
たとえば…
- JRA(日本中央競馬会)は、定期的に獣医学生向けの実習募集を行っており、大学を通じて案内が届きます。Webサイトにも掲載されることがあるので、こまめなチェックが重要です。
- 中央畜産会も、馬の臨床研修プログラムなどを企画しており、参加希望者を公募することがあります。
- 開業している馬専門病院や総合病院の中には、自身のWebサイトやSNS(InstagramやXなど)で実習受け入れ情報を発信しているケースもあります。
こうした情報を見逃さないよう、公式サイト・SNS・大学の掲示板やキャリアセンターなどを定期的に確認する習慣をつけましょう。
学会・イベントで直接話を聞いてみる
実習だけでなく、学会や講演会などの現地イベントに参加するのも有効です。
たとえば「日本ウマ科学会」や大学主催の研究会では、臨床現場の獣医師や大学の教員と直接話せる機会があり、実習受け入れに関する情報が得られることも。
「馬の世界に興味があります」と素直に伝えるだけでも、親身になって教えてくれる方は少なくありません。
SNSを活用して情報網を広げよう
自身の大学や周囲から情報を集めるのが難しい方は、SNSでの情報収集を行なってみるのはいかがでしょうか。
近年では、X(旧Twitter)やInstagramで情報を発信する獣医師や施設も増えています。実際にDMでアドバイスをもらったり、実習先を教えてもらえた例もあります。
最初は「いいね」やコメントから交流を始め、徐々にネットワークを広げていきましょう。自分が情報発信することで声をかけられることもあります。
JRAの情報源を見逃さない
JRA(日本中央競馬会)は、学生向け実習の募集や業界情報を最も積極的に発信している機関のひとつです。
定期的に実習を開催しており、大学経由で案内が届くほか、JRAの公式サイトにも詳細が掲載されることがあります。
また、実習では競走馬の診療の現場を間近で体験できるため、JRA志望者だけでなく馬医療に興味がある学生全体にとって有意義な経験となります。
「実際に現場を見たうえで進路を決めたい」という方は、JRAの募集情報を見逃さないようにしましょう。
実習にかかる旅費を補助してくれる制度も活用しよう
生産地での馬獣医インターンシップには、日本軽種馬協会(JBBA)による旅費補助制度があります。日高軽種馬農協、NOSAI、開業獣医師など、さまざまな施設での実習が補助対象となっており、交通費・宿泊費の負担を軽減できる貴重な制度です。
金銭的な不安から実習をためらっていた学生にとっても、大きな後押しとなるはず。
制度の詳細や対象施設の情報は、以下のリンクから確認できます。
補助対象のインターンシップ一覧はPDF内のQRコードからまとめて確認できるので、ぜひチェックしてみてください。
馬業界への就職を決めたらどう動くべき?

ここまで、馬の獣医師としての働き方や情報収集の方法について見てきましたが、「馬の仕事がしたい」と思ったら、次に気になるのは「いつ、何から始めるべきか」という点ではないでしょうか。
実は、馬業界の就活では「タイミング」がとても重要です。特に生産や繁殖に関わる現場では、季節が限られているため、動き出しが遅いと大切なチャンスを逃してしまうことも。
ここでは、馬業界を目指すにあたっていつ・どんな準備をしておくと良いのかを順番に解説していきます。
実習・インターンは4年生のうちに始めよう
馬の業界に進みたいと思ったら、まずは4年生のうちに実習・インターンを経験しておくのがおすすめです。
馬の仕事にはさまざまな分野があるため、なるべく複数の施設に足を運び、「自分に合う働き方はどこか」を探す時間を確保しておきたいところです。
特に注意しておきたいのは、馬の繁殖業務には「季節性」があること。
近年は繁殖シーズンの開始が年々早まっており、分娩は2月から始まるケースが増えています。たとえば、JRA日高育成牧場では2月から出産が始まり、それに合わせて実習や見学を行う学生もいます。
そのため、繁殖関連の現場を見たいと考えている場合、6年生になってからでは遅く、4年生の冬頃には情報収集や準備を始めておくことが望ましいでしょう。
早めに実習に行っておくことで、現場の雰囲気も把握しやすくなり、就職活動でも具体的な志望動機として活かすことができます。
またインターンに多く参加しておくことで、就職活動時にわかりやすく熱意を示すことができます。
エントリーシートの準備は5年生のうちに
馬の業界を志望する場合でも、就職活動の基本は変わりません。エントリーシートの提出を求められる場面は多く、志望動機やこれまでの経験を言語化できるかどうかで、印象が大きく変わってきます。
ただし、小動物臨床を目指す学生の中には、卒業までに一度もエントリーシートを書かないまま終える人も少なくありません。そのため、馬の業界に進もうと決めた場合でも、初めての就活書類に戸惑うケースが多いのが実情です。
5年生のうちから少しずつ準備を始めておくことで、就職活動本番の春に焦ることなく、自分の考えや経験をしっかり伝えられるようになります。大学のキャリア支援課や、馬業界に詳しい先生に添削をお願いするのも有効です。
筆記試験の勉強を始めておこう
馬業界に進むうえで多くの学生が直面するのが、筆記試験の壁です。
どれだけ現場経験や熱意があっても、学科試験で点が取れなければ内定に届かないケースもあります。
本格的に取り組むのは6年生になってからでも十分間に合いますが、できれば5年生のうちから少しずつ勉強を始めておきましょう。
特に、大学によっては馬に関する講義が充実していない場合もあるため、自主的な情報収集が重要です。
以下のような方法を参考に、自分なりの対策を組み立ててみてください。
筆記試験や専門的な知識とあわせて、馬そのものについての理解も深めておくと、実習や就職後にスムーズに現場に馴染めます。
たとえば、「どんな餌を食べるのか」「どのような放牧方法があるのか」「どういった動きや表情で喜んだり怖がったりするのか」といった馬の基本的な行動や習性に触れておくことで、未経験の方でも安心して一歩を踏み出せます。
さまざまな分野に足を運ぶことが就職後のミスマッチ防止に
馬業界とひとくちに言っても、生産、育成、調教、競走、繁殖、引退馬支援など、多くのステージが存在します。
それぞれの現場で求められるスキルや働き方は大きく異なるため、学生のうちから複数の分野に触れておくことが重要です。
実際に馬の血統・種牡馬関連の職種に就いた方からも、「自分は明確な志望があったので迷いは少なかったが、就職後に他分野の獣医師と関わる中で、各ステージでまったく異なる働き方があることを実感した」との声がありました。
そのうえで、学生時代から幅広いインターンや実習を経験しておくことが、就職後のミスマッチを防ぐうえでも大切です。
実習も就活も、「今」の選択が未来をつくる
馬の獣医師として働く道は、小動物臨床とはまた違った魅力と奥深さがあります。
一方で、情報の少なさや季節ごとの業務特性、実習先の選定など、事前の準備が結果を大きく左右するのも事実です。
だからこそ大切なのは、「なるべく早く動き出すこと」と「現場のリアルに触れること」。
5年生の春から情報収集・実習参加を始めて、自分に合った道を見つけていきましょう。
少しでも「馬の仕事って楽しそう」「自分にもできるかも」と思ったら、まずは一歩踏み出してみてください。
この記事が、その第一歩を後押しできていたら嬉しいです。
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