日本の獣医師免許だけでは、アメリカやカナダでそのまま働くことはできません。では、北米で獣医師として働くには、どのような認定試験や手続きが必要なのでしょうか?
本記事では、NAVLE(北米獣医師国家試験)を中心に、ECFVGやPAVEといった認定制度の違い、受験のステップ、費用、ビザやキャリアパスまでを徹底的に解説。実際に挑戦した人の体験談やおすすめの勉強法も紹介します。
日本の獣医師免許はアメリカ・カナダで通用するの?

北米で臨床獣医師として働きたいと思ったとき、最初に気になるのが「日本の獣医師免許はそのまま使えるの?」という点です。この章では、その基本的な制度の違いと、必要となる資格取得について整理していきます。
原則通用しない。各国ごとに免許取得の制度がある
日本の獣医師免許は、アメリカやカナダでは原則としてそのまま使うことはできません。
これは、北米では獣医師の免許制度が州や準州ごとに設けられており、各地域で独立したライセンス発行基準があるためです。たとえ日本の国家試験に合格していても、現地の法律上それだけでは診療行為は認められません。
また、教育カリキュラムや動物福祉、公衆衛生に関する法制度の違いも大きく、北米ではより実践重視かつ制度的に厳格な評価体制が敷かれています。
だからこそ「北米の国家資格取得」が必要になる
北米で臨床獣医師として働くためには、その地域の免許を取得する必要があります。中心的な試験が、NAVLE(North American Veterinary Licensing Examination)です。
NAVLEは、アメリカおよびカナダで共通して採用されている国家試験で、獣医師としての臨床的な知識と能力が評価されます。
ただし、NAVLEは誰でもすぐに受験できるわけではありません。以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
- アメリカ獣医師会(AVMA)認定校の在学生または卒業生
- 外国人獣医師向けの認証プログラム「ECFVG」または「PAVE」の一定ステップを修了した者
日本の大学はAVMAの認定を受けていないため、基本的にはECFVGまたはPAVEを通るルートとなります。
日本の獣医学部卒が北米で働くためのステップは?

アメリカやカナダで獣医師として働くためには、国家試験である NAVLE の合格だけでなく、その受験資格を得るための手続きが必要です。これは日本を含む「AVMA非認定校」の卒業生にとって、最初の大きな関門になります。
ここでは、日本の獣医学部を卒業した人が北米で働くために必要な3つのステップを順に紹介します。
ステップ① NAVLEの受験資格を得る(ECFVGまたはPAVE)
日本の獣医学部を卒業しただけでは、NAVLE(北米獣医師国家試験)を受けることはできません。
なぜなら、日本の大学は、米国獣医師会(AVMA)の認定を受けていない「非認定校」に分類されるからです。
そこで必要となるのが、ECFVG(外国獣医学卒業生教育委員会)やPAVE(獣医学教育同等性評価プログラム)といった「NAVLE受験資格を補うための教育評価制度」です。
どちらもNAVLE受験のために用意された公式ルートですが、対応している州や必要な手続きには違いがあります。
ECFVGの概要(クリックで展開)
- 対象者:AVMA非認定の獣医学部卒業生(日本のすべての大学を含む)
- 特徴:全米50州+連邦職で有効。4ステップ構成
- 認定数:1973年開始以降、7,000人以上が認定。
4つのステップ(要約)
- 登録と卒業証明書の提出
- 英語力の証明(TOEFLやIELTS)
- 獣医学の基礎・臨床知識評価試験(BCSE)に合格
- 臨床スキル評価試験(CPE)に合格
試験や提出書類、費用、英語力の条件なども細かく定められており、詳細なスケジュール管理が必要です。
PAVEの概要(クリックで展開)
- 対象者:AVMA非認定の獣医学部卒業生(日本のすべての大学を含む)
- 特徴:NAVLE受験前に、理科試験+臨床実習を含む3ステップ構成
- 認定機関:AAVSB(アメリカ獣医州委員会協会)が運営
- 対応州数:米国・カナダを中心に40以上の州・地域で有効
3つのステップ(要約)
- 理科試験(QSE)の合格
NAVLE前に受ける基礎・臨床前科学の試験(200問・約3.5時間) - 英語力の証明(TOEFLやIELTSなど)
TOEFL iBT/IELTS Academicの各セクションにスコア要件あり - 臨床実習(ECE)を修了
AVMA認定の獣医学部での評価付き実習(期間は学校により異なる)
申請料、必要書類、実習受け入れの可否など、事前に十分な確認とスケジュール管理が必要です。
このように、NAVLEの前段階として「教育の同等性を証明する制度」を通過することが、日本の獣医学生にとっての最初のハードルです。
ステップ② NAVLE(国家試験)に合格する
NAVLE(North American Veterinary Licensing Examination)は、アメリカ・カナダで獣医師として働くために必要な国家試験です。多くの州で、この試験に合格することがライセンス取得の前提条件となっています。
NAVLEは、臨床能力を幅広く問う試験であり、犬猫、馬、牛、豚、家禽など多様な動物種に関する問題が出題されます。
📘 NAVLEの試験概要(クリックで展開)
試験形式:コンピューター形式による多肢選択式(360問)
試験時間:7.5時間(7つのセクションに分かれている)
試験内容:診断、治療、予防、公衆衛生、ワンヘルスに関する知識、コミュニケーションやプロフェッショナリズムなどの総合的スキル
実施時期:年3回(例:2025年10~11月、2026年3月、7~8月)
受験場所:アメリカ・カナダ国内、および一部の海外Prometricセンター
📝 受験に必要な手続きと番号(クリックで展開)
NAVLEを受験するには、いくつかの申請と番号管理が必要です。
- ICVAID:NAVLE申請が受理されると発行。試験予約やスコア確認に使用。
- 予約番号:Prometricで試験予約を行うために必要。
- CIN(Candidate Identification Number):試験当日に持参する受験票に記載。
- 確認番号:試験予約時に発行され、日程変更時に必要。
これらの番号は、すべて発行されたメールおよび予約・受験許可証に記載されます。試験当日は、印刷した受験票と政府発行の身分証明書(パスポートなど)が必須です。
📚 勉強方法や教材について(クリックで展開)
NAVLE対策として、以下のような教材や勉強法が有効とされています。
- Zuku Review:NAVLE対策に特化したオンライン教材。問題演習と解説が豊富。
- VetPrep:模擬試験や診断シナリオを通じて実践力を高めることが可能。
- Anki(暗記カード):獣医学の重要事項を反復学習。
- ChatGPT:英語で症例練習、日記作成、質問応答による学習サポート。
今後、NAVLE対策については別記事でより詳しく紹介していく予定です!
ステップ③ 州ライセンスを取得し、就職先に申請する
NAVLEに合格しただけでは、すぐにアメリカやカナダで獣医師として働けるわけではありません。次に必要なのは、働きたい州や地域の「獣医師免許(州ライセンス)」を取得することです。
各州はそれぞれに独立した免許制度を持っており、NAVLE合格後も追加の申請や書類の提出、倫理規定への同意などが必要となります。
📍 州ライセンス取得の基本的な流れ(クリックで展開)
- NAVLE合格証明の提出
NAVLEを実施したICVAまたはAAVSB経由で、スコアを各州の獣医師会に送信します。 - 州ライセンス申請
州ごとに定められたフォームや手続きに沿って、正式に免許を申請します。 - 追加試験や書類の提出(州による)
一部の州では、法律や倫理に関する独自の試験(jurisprudence exam)や、身元証明書、推薦状などが求められることがあります。 - 審査・承認
審査期間は州によって異なります。平均で数週間~数か月かかることがあります。
🗂️ 州によって異なるライセンス要件(クリックで展開)
- 一部の州では、NAVLE合格に加えて州独自の倫理試験が必須
- 例:カリフォルニア州、フロリダ州など
- 勤務先の確保が前提条件になる場合もある
- 就職先や実習先からの受け入れ証明を提出する州も存在します。
- 定期的な更新と継続教育(CE)が義務付けられる
- 免許取得後も、数年ごとの更新や学会参加などが求められます。
※ ライセンス取得の条件は頻繁に更新されるため、必ず希望州の獣医師免許委員会(Veterinary Licensing Board)の公式サイトで最新情報を確認してください。
💼 ライセンス取得後の就職活動について(クリックで展開)
ライセンス取得後は、正式に獣医師としての就労申請が可能になります。主な就職先は以下の通りです。
- 一般動物病院(Small Animal Practice)
- 大動物クリニックや牧場(Large Animal Practice)
- 大学附属病院(Teaching Hospital)
- 製薬・ペットフード企業
- 公共機関・研究機関
また、就労ビザの取得が必要な場合もありますので、雇用主との事前確認が重要です。
NAVLEってどんな試験?いつ、どこで受けられる?

NAVLEは、北米で獣医師として働くために必須の国家試験です。その試験形式や受験時期、実施場所には独特の特徴があります。
年3回、世界中のPrometricセンターで受験可能
NAVLEは、毎年以下のような3つの期間に分けて実施されます。
- 【秋季】10月中旬~11月中旬
- 【春季】3月上旬~3月下旬
- 【夏季】7月中旬~8月上旬
これらの期間中であれば、Prometric(プロメトリック)社が運営するテストセンターで受験が可能です。試験センターはアメリカ・カナダ国内だけでなく、日本を含むアジア、ヨーロッパ、オセアニアなどの一部国際都市にも設置されています。
特定の試験期間に受験を希望する場合は、申請書類の提出締切が決まっているため、事前に必ずICVAの公式サイトで確認しておくことが重要です。たとえば、秋の試験を受ける場合は7月中旬までに申請が必要です。
参考:https://www.icva.net/navle/
360問・約7.5時間、すべて英語の多肢選択式試験
NAVLEは臨床獣医師としての基礎的な実力を評価するための試験で、出題形式はすべて英語の多肢選択式(MCQ)となっています。
- 出題数:360問
- 試験時間:約7.5時間
- 内容:小動物・大動物・家禽など多様な動物種に関する臨床・公衆衛生・予防・倫理など
出題は数セクションに分かれており、途中に休憩時間が設けられます。受験者には、犬猫や牛馬などの臨床スキルだけでなく、獣医倫理、獣医公衆衛生、コミュニケーション能力といったプロフェッショナリズムの観点からの知識も求められます。
また、NAVLEの出題基準は、AVMAやICVAが定めた「獣医師に求められるコンピテンシー(職能)」に基づいており、詳細は下記PDFで公開されています。
参考:NAVLE Competencies PDF(ICVA公式)
ECFVGとPAVEって何?どう違うの?

北米で獣医師として働くには、日本の獣医学部を卒業しただけでは免許が取得できません。そのため、NAVLE(国家試験)を受ける前に「外国人獣医師向けの認定制度」を通過する必要があります。
この認定制度には主に2種類あり、それがECFVG(アメリカ獣医師会による制度)とPAVE(州獣医師会連盟による制度)です。それぞれの概要と違いを見ていきましょう。
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