動物が好き。小さい頃からずっとそうだった、という人は多いと思います。
ペットと暮らした経験や、動物園・水族館で感じたワクワク。「動物に関わる仕事ができたらいいな」と、一度は考えたことがある人も多いでしょう。ただ、動物に関わる仕事は「好き」という気持ちだけでは語りきれない世界でもあります。
命を扱うということ。病気や死と向き合うということ。そして、人の期待や責任を背負うということ。それらは、SNSやネット記事だけではなかなか見えてきません。
だからこそ今回は、動物が好きな人が、“次の一歩”を考えるための本を集めました。
獣医師の仕事、動物医療の現場、そして「動物と関わるとはどういうことなのか」をそれぞれ違った角度から教えてくれる7冊です。
「動物が好き」という気持ちを知識と覚悟に変えていくための入口として、ぜひ気になる本から手に取ってみてください。
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命と向き合うことを教えてくれる本
「動物が好き」という気持ちを持っていると、どうしてもかわいい・楽しい側面に目が向きがちです。けれど、動物と本当に向き合うということは、生きることだけでなく死ぬことからも目をそらさないことです。
ここで紹介する本は、ショッキングな本や専門家向けの難しい本ではありません。どれも「動物の命を、きちんと考えるきっかけ」を与えてくれる一冊です。
死んだ動物の体の中で起こっていたこと(中村進一)

この本は、獣医病理学者である中村進一先生が、動物の「死因」を調べる現場で見てきた事実をもとに書かれたエッセイです。
病理解剖と聞くと、少し怖い印象を持つかもしれません。ですが本書で語られているのは、決して残酷さを強調するような内容ではありません。
- なぜこの動物は亡くなったのか
- 苦しみはなかったのか
- 生きていたとき、どんな環境で暮らしていたのか
そうした問いに、一つひとつ丁寧に向き合う姿が描かれています。
特に印象的なのは、飼い主が「良かれと思ってしたこと」が、結果的に動物を苦しめてしまうケースです。これはペットを飼っている人、これから動物に関わる仕事をしたいと考えている人にとって、決して他人事ではありません。
この本は、
- 動物を「かわいい存在」としてだけで見ていないか
- 命を預かる責任を、どこまで想像できているか
そんな問いを、静かに投げかけてきます。
少し重たいテーマですが、「動物が好き」という気持ちを、より深いものにしてくれる一冊です。
獣医病理学者が語る動物のからだと病気(中村進一)

先ほど紹介した本で、中村進一先生は「亡くなった動物の体が、私たちに何を伝えているのか」という問いを投げかけていました。
この『獣医病理学者が語る動物のからだと病気』は、その視点を生きている動物の体に向けた一冊です。なぜ病気は起こるのか。体の中では、何が起きているのか。
病理学という専門分野を軸にしながらも、本書で語られる内容は驚くほど身近です。猫が特定の中毒を起こしやすい理由。動物ごとに異なる臓器のつくり。同じ病名でも、経過が大きく違う背景。
そうした話が、「なるほど、そういう体なんだ」と自然に腑に落ちる形で語られていきます。
印象に残るのは、病気が偶然ではなく環境や人との関わりの積み重ねとして現れることが多いという視点です。かわいいから守るではなく、理解することで守る。
先ほどの本が「命が終わったあとに何を学ぶか」だとしたら、この一冊は命が続いているあいだに、何に気づけるか を教えてくれます。
「獣医師は動物を治すだけの仕事ではない」その事実を知りたい人に、ぜひ読んでほしい一冊です。
野生動物・珍しい動物の医療現場を知る本
犬や猫の診療だけが、獣医師の仕事ではありません。実際の現場では、人に慣れていない動物やそもそも触れること自体が危険な動物とも向き合う必要があります。
野生動物や、いわゆる「珍しい動物」と呼ばれる生きものたちは、体の構造も行動も、ストレスの感じ方もまったく違います。その医療現場は、想像以上に緊張感に満ちています。
ここで紹介する本は、そうした “人間の常識が通用しない現場” で獣医師たちがどのように命と向き合っているのかを、実感として伝えてくれるものです。
珍獣の医学(田向健一)

獣医師の仕事というと、犬や猫の診療を思い浮かべる人が多いかもしれません。けれど実際には、獣医師が向き合う動物はそれだけではありません。
鳥やウサギ、カエル、トカゲ。いわゆる「珍獣」「エキゾチックアニマル」と呼ばれる動物たちも、体調を崩し、治療を必要とします。この『珍獣の医学』は、そうした動物たちの診療に日々向き合っている獣医師、田向健一先生が書いた一冊です。
ペンを飲み込んでしまったカエルや、異物を詰まらせたオオトカゲなど、一見すると冗談のような出来事も、現場ではすべて命に関わる問題として扱われます。
印象的なのは、どの動物も「特殊だから大変」なのではなく、それぞれがまったく違う体の仕組みを持っているという点です。犬や猫と同じ常識は通用しないからこそ、獣医師は毎回考え、工夫しながら治療に向き合います。
文章はユーモアがあり、専門知識がなくても読み進めやすいです。
動物が好きという気持ちの延長線上に、こんな獣医師の仕事もあるのだと自然に気づかせてくれる一冊です。
注文の多すぎる患者たち 野生動物たちの知られざる診療カルテ(ロマン・ピッツィ)

動物園や野生動物の医療現場では、診察台に乗る患者が大人しく待ってくれることはありません。クマやゴリラ、サメ、タランチュラ。この本に登場する動物たちは、どれも治療そのものが危険と隣り合わせです。
一つ判断を誤れば、動物だけでなく人の命にも関わります。
著者のロマン・ピッツィ氏は、野生動物の外科医として、そうした現場を数多く経験してきました。本書では、驚くような治療エピソードが次々と紹介されますが、読み進めるほどに伝わってくるのは、派手さよりも慎重さです。
野生動物の治療は、「助けたら終わり」ではありません。治療後、その動物が再び自然の中で生きていけるかどうかまでを考える必要があります。
だからこそ一つひとつの判断が重く、同時に獣医療が自然や社会と深くつながっている仕事であることが見えてきます。
この本は、野生動物医療のスケールの大きさとその裏にある責任の重さを、臨場感とともに伝えてくれる一冊です。
動物の行動から世界を理解する本
動物の体や病気について知ると、次に気になってくるのが「なぜ、こんな行動をとるのか」という点です。
集団で行動する理由。仲間と協力したり、時に争ったりする背景。一見すると人間とまったく違うようで、よく観察するとどこか共通点も見えてきます。
ここで紹介する本は、動物たちの行動や社会性を通して生きものをより立体的に理解する視点を与えてくれるものです。
ウォード博士の驚異の「動物行動学入門」 動物のひみつ 争い・裏切り・協力・繁栄の謎を追う(アシュリー・ウォード)

この本で語られているのは、単なる動物の不思議な行動集ではありません。著者は動物行動学の研究者として、世界中で観察してきた事例をもとに、動物たちがどのように集団を作り生き延びているのかを描いています。
アリが集団のために自らを犠牲にする話や、鳥が仲間の行動を読んでエサを隠す場所を変える話など、一つひとつのエピソードは驚きに満ちています。
読み進めるうちに気づかされるのは、動物の行動が決して「本能だけ」で説明できないということです。そこには、学習や記憶、状況判断といった要素が複雑に絡み合っています。
この本は、動物の世界を通して人間社会を少し違った角度から見直すきっかけも与えてくれます。
動物が好きな人はもちろん、「なぜ生きものはこう振る舞うのか」と考えるのが好きな人にとって、知的好奇心を静かに刺激してくれる一冊です。
動物には何が見え、聞こえ、感じられるのか(エド・ヨン)

私たちはつい、自分の感覚を基準にして動物を見てしまいます。けれど、動物たちは人間とはまったく違う感覚の世界で生きています。
この本が扱っているのは、そうした動物たちの「環世界」です。視覚、聴覚、嗅覚。どれも人間と同じようでいて、その性能や捉え方は大きく異なります。
たとえば、私たちには見えない色が見えている動物がいること。遠くの音や、かすかな振動を手がかりに行動している生きものがいること。本書では、そうした例が具体的に紹介されていきます。
読み進めるうちに、動物の行動が「不思議」でも「奇妙」でもなく、その動物にとってはごく自然な選択であることが見えてきます。
行動の理由を、性格や本能だけで片づけてしまう前に、そもそも見えている世界が違うという前提に立つ。この本は、その視点を与えてくれます。
動物を理解するとは、人間の目線を押しつけることではなく相手の世界を想像してみることなのかもしれません。
動物と仕事・お金・社会のリアルを知る本
動物に関わる仕事は「好き」だけでは成り立ちません。命を守るには環境が必要で、環境を維持するにはお金が必要です。
この章では、動物と人間社会がどのように支え合っているのかその裏側を知ることができる本を紹介します。
妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?(北澤 功)

「もしパンダを飼ったら、いくらかかるのか?」そんな突飛な問いから始まるこの本は、動物を飼う・守るという行為が、どれほど多くのコストに支えられているかを教えてくれます。
エサ代、飼育環境、医療、設備。数字で示される現実は、時に夢を壊すように見えるかもしれません。けれど同時に、動物が生きていくためにどれほど多くの人と仕組みが関わっているのかが、自然と見えてきます。
動物園や水族館がなぜ簡単には成り立たないのか。「かわいい」の裏側にある現実を、重くなりすぎず、楽しみながら学べる一冊です。
世界をめぐる動物園・水族館コンサルタントの想定外な日々(田井 基文)

この本で描かれているのは、動物を直接診る仕事ではありません。
動物園や水族館の裏側で、施設づくりや環境整備を通して命を支える仕事。それが、動物園・水族館コンサルタントという立場です。
世界各地の現場では、想定外のトラブルや制約が次々に起こります。そのたびに、人が考え、動き、判断する。
動物の仕事は、獣医師や飼育員だけで成り立っているわけではない。この本は、そうした「見えにくい役割」の存在を教えてくれます。
本を通して見えてくる、「獣医師」という仕事の輪郭
ここまで、動物の体や行動、命の現場、そして動物に関わる仕事のリアルを伝えてくれる本を紹介してきました。
獣医師の仕事は犬や猫の診療だけではありません。野生動物やエキゾチックアニマル、動物園や水族館、研究や病理、さらには社会やお金の問題とも向き合います。
動物と人のあいだに立ち、命を支える。それが獣医師という仕事の本質です。
もし今、「動物が好き」という気持ちが「もっと知りたい」「関わってみたい」という思いに変わってきたなら、次に知ってほしいのは獣医師になるまでの道のりです。
どんな大学に進み、どんな勉強をして、どんな試験を越えるのか。それを知ることで、憧れは具体的な目標になります。
本で世界を広げた次は、ぜひ「進路」という視点から、獣医師という仕事を見てみてください。




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