みなさんは「SFTS」という病気を耳にしたことはありますか?
日本語で「重症熱性血小板減少症候群」と呼ばれるこの病気は、人間と猫の両方で30〜50%以上という非常に高い致死率を誇ります。
今回は、そんなSFTSから猫や人を守るためクラウドファンディングを立ち上げた大学病院の先生にお話を伺っていきます。
大学病院の獣医師としての使命は「社会貢献」
ーー今回は、宮崎大学附属動物病院准教授 金子泰之先生にお話を伺っていきたいと思います。早速質問なのですが大学の先生だからこそ意識することはあったりするのでしょうか?
自分が思うのは「社会貢献」をするということですね。
捉え方は難しいのですが、一番わかりやすいのが「動物病院での診療」で、その地域の患者さんたちの助けにはなるということが当然社会貢献の1つだと思っています。
また、僕たちが得た専門的な知識を「獣医の先生に伝える」
もちろん全国区の学会もあるので、そういったところで講演したり論文にまとめて出したりっていうところが大学の先生としての社会貢献なのかなと思います。
ーー確かに、学会での発表などは大学の先生ならではの社会貢献ですね。
空気で部屋を作る技術を感染防止に応用したい
ーー先生が考えてらっしゃる「シェルター」というのはどういったことがきっかけだったのですか?
今、コロナ渦でやっぱり感染症が問題となってきて、特に2020年、僕自身はちょっとだけですけど、出張とかがなくなって少し暇になったんです。
そのときに何かやれないかなと思って宮崎県のローカル番組のテレビを見ていたら、空気を使って部屋を作れるみたいな技術を持った会社さんが特集されていたんですね。
そのとき、僕はこの技術が犬猫のSFTSという感染症の隔離施設に使えるんじゃないかなと思って。
ーーそのSFTSというのはどういった感染症なのでしょうか?
SFTSっていう病気は日本語でいうと「重症熱性血小板減少症候群」という病気になります。
基本的にはSFTSウイルスっていうのを持ったマダニが人や猫、犬などを噛むとそこから感染することがあるという風に言われているウイルスです。
ネコの致死率が50%を超える、ものによっては7割を超えるウイルス性の疾患で、ヒトにもうつる人獣共通感染症なんですね。ヒトでもかなり死亡率が高く、50代の人では死亡率が大体2割から3割と言われています。
そして今一番困っているのが、猫がSFTSに罹って実際に飼っている方にうつってしまうという事例です。SFTSはダニからヒト、ダニからネコっていう形で移っていくといわれているんですけども、猫からヒトに移る事例が出てしまっている。他にも診察している獣医さん達がその猫ちゃんからSFTSにかかってしまったという事例も実際にあります。
しかも、動物へのSFTSに対しては未だ法的な規制がありません。
ーー法的な規制はないのですか?
人間だと届出伝染病なんです。4類感染症といって、ちゃんと病院に入院して隔離することが法的に必要だとされています。しかし動物にはそういった法律がなく、また今のところ予防策もない。
だから、動物病院に入院してうつらないように隔離するということがあまりない。
コロナウイルスは人間がかかったら隔離されますよね、法的に規制されているから。でも猫のSFTSに関しては法的規制が今なくて、連れて帰ってしまって感染するということが容易に起こり得る。
新型コロナの人間の死亡率は0.0何パーセントだと思うんですけども、SFTSウィルスは2〜3割あるんです。
SFTSに先立ち新型コロナに対応した隔離室を開発
ーーそこで、空気で部屋を作る技術を隔離室として利用することを考えられたのですね。
そうですね。宮崎県はSFTSの感染報告が最も多いということもあって、何か隔離できるものを作りたいなと思ってその会社さんへ連絡しました。しかし残念ながら、SFTS隔離室の社会的意義は高いと思うのですが、ビジネス的にはなかなか取り組むことが困難でした。そこでまず、新型コロナウイルス用に人間を隔離する隔離室を作ることにしたんです。
CADICという宮崎大学の感染症のチームやウイルス関係の研究をしていらっしゃる先生たちと協力して新型コロナの隔離室を作りました。作っただけじゃなく、ちゃんと病院や社会福祉施設、老人ホームなどに導入され多くの人の役に立つことができました。なので、社会貢献としては僕がここ最近やってきた中でも一番いい例かなっていう風には思います。
ーーSFTSのための隔離室を作ることは依然として難しいのでしょうか?
資金的な面で、企業さんにビジネスとしてやってもらう分には厳しいというのが現状です。
また現在法的規制がないので、国や県から予算を確保するというのも少し難しいですね。
ーーどうにか開発する手段はないのでしょうか?
実はですね、クラウドファンディングという形で寄付を募って、隔離室を作ろうかなっていう活動をしつつあります。自分の利益にならなくていいですし、名義にしようとも思っていません。
社会的貢献として、クラウドファンディングという手段を取ることに決めました。
SFTSから命を守り 怖さを伝えるためのクラウドファンディング
ーークラウドファンディングであれば、広くSFTSのことを知ってもらうことにも繋がりますね。
実はそれも狙いの1つで。SFTSという病気は、獣医療や医療の関係者でなければ全国的にはまだまだ知られていません。でもクラウドファンディングを行うことで、色々な人に呼びかけることができます。飼い主さんたちにも、こういう病気があって、こういう注意をした方がいいという啓蒙ができると思ったんです。
寄付していただくという話なので、偉そうに非常に申し訳ないなって気持ちはもちろんありますが、SFTSという恐ろしい病気が知られることの価値はすごく高いのかなと思い、宮崎大学の方に承認をしっかり得ました。
クラウドファンディングをするにあたって、SFTSウイルスっていうものが正しく理解されることが目標かなというふうに思っています。実際感染した猫や人が現れたときに、対応できる体制を作ることが目標です。
ーークラウドファンディングはどのように進めて行く予定なのでしょうか?
Ready forという会社を通して寄付をお願いするという形になります。寄付でいただいたお金でちゃんとした隔離室を作り、それをなるべく使っていただけるような体制を作っていくということを今年と来年でやっていきたいと思っています。
ーー使っていただける体制というのは?
まだ考えている段階なのですが、各県にある獣医師会さんに貸し出しを行っていこうと考えています。貸し出すときの送料はかかってしまうかもしれませんが、寄付していただいたお金で開発するものなので、売るということはあまり考えていません。
ーー開発予定の隔離室はSFTS以外の感染症にも応用可能なのですか?
SFTSを主眼に作っていこうとは思っていますが、今もコロナウイルスやサル痘などさまざまな感染症が話題になっていますよね。
これからも、どんどん新しい感染症が出てきて広がっていく可能性はあると思うんです。なので、様々な感染症に応用できるようにはしていきたいですね。
コメント